今日も今日とてお客の少ないこの本屋へと入って来た長髪の兄ちゃんは、

私の姿を捉えたとたん、

急いで外へ出て店の名前を確認し直しました。





















・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜに?








F00lish









「・・・・なぁ。此処ってソウルってやつが経営してる店、だよな・・・?」
「そうですけど・・・。店長に御用ですか?」
「い、いや。そうならいいんだ」

店の名前を確認し終わった長髪の兄ちゃんは、何とも形容しがたい微妙な表情を浮かべ、カウンターに来てそんな事を聞いてきた。
こんな事を聞く、ということは、この人もこの店の常連。つまる所ソウルさんの知り合いなのだろう。




此処で働き始めて二年。

その間、初めて会った常連の人たちはかならず私を見て変な顔をする。
それは何というか驚いたというか、何か信じられないようなものを見たというか、大体その辺の顔なのだ。(イルミは無反応だったけど)

そして、目の前で今までの人物たちと同様の表情を浮かべている兄ちゃんは、さっきから何か云いたそうに口を動かしているものの、言葉にならないのか「あー・・・」とか「えぇ・・・」とか云っている。(結構怪しいんだが、どうしよう)


そこへ


「なんだい。やっぱりカイトか」
店の奥からやってきたのは、どことなく眠そうなソウルさん。
そのソウルさんのセリフで目の前の兄ちゃんが自分の予想通りの人物であったということを確認する。(長髪に帽子っていやぁ一人しか居ないでしょう)

「どうしたんだい?今アンタが予約入れてる本は無いはずだけど」
「いや、仕事で近くまで来たついでによっただけだから・・・」
「ふぅん」

ソウルさんはそう云うと椅子に座っている私の肩に手を置いた。

「ついでだから紹介しとく。今ウチに住み込みで働いてもらってる。これから店に来るときは顔を合わせることになるだろうから、名前ぐらい覚えときな」

ビキリ、とカイトの顔が引きつったのが分かった。

「・・・・・・す、み込み・・・?」
「そ、住み込み」

語尾にハートでもつけそうなくらい楽しそうな声でその事実を告げるソウルさん。
そんなソウルさんから視線を外し、こちらを見るカイトに私は苦笑を返す。




カイトや他の常連の皆さんが私を見て変な顔をするのも無理は無い。
ソウルさんは、「他人と一定の生活空間を共有出来ない」という病気の持ち主なのだ、と。
一年前、私は本人の口からそう聞かされた。






「どうも、こう、ね。不安になるんだよ」
「はぁ・・・」

自分は病気なのだと告げたソウルさんは、コーヒーの入ったマグカップを両手で抱えこむようにして、そう切り出した。
どうも精神的な病であるようなのでソウルさんも病気に関する詳しいことは説明してくれなかった。

ただ、ある一定時間同じ空間に居続けると「相手が自分に何らかの危害を加えるのではないか」という不安を抱くようになる、ということだけ説明してくれた。


「でも、。あんたにはその症状が出ないんだよ」


少しだけ嬉しそうに微笑んで、ソウルさんはそう云ってくれた。

「今まではこんなこと無かったからね、今はすごく不思議な感じだよ」

その言葉がなんだか嬉しくて、少しくすぐったかったのを今でも覚えている。







「あぁ。そうそう。、今日の昼食をさ何でもいいから買ってきてくれないかい?」
「・・・そういえば、冷蔵庫空でしたね。分かりました、行ってきます」
「頼むよ」

元々それを頼むつもりでいたようで、ソウルさんの手にはすでにサイフと買い物用の袋があった。
その二つを受け取って、私は店のドアへと向かう。

「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」

カランカラン、と。
この店独特の鐘の音を響かせ、私は店を出た。











「・・・で、今のが『例の女の子』・・・か?」

の出て行った店内で、カイトは硬い声でそう切り出した。

「あぁ」
「アンタですら正体が掴めないというからどんなヤツなのかと思っていたが・・・。なんというか・・・」

そこで言いよどんだカイトの言葉の続きを正確に読み取り、ソウルは同じ気持ちで軽く嘆息した。

「云いたいことは分かるさ、普通だと云いたいんだろ?あぁ、あの子は普通なのさ。そしてあまりにも普通すぎる・・・・・・・・・・

「・・・・・・」
「この土地に現れた『目的』も『手段』も分からなければ、国籍も住所も名前もどこのデータベースとも一致しない、そして何より私の『病気』が発病しない。そんな特異な存在だというのに、あの子自身は驚くほど普通の日常を生きている。不思議だよ、本当に。不思議で不思議でたまらない」

今のソウルの表情は、の前では絶対に見せることの無い『もう一つの仕事』をこなすときのものへと変貌していた。
例えるならばそれは、冬の湖面。
決して波の立つことの無い、触れれば切れるかのような張り詰めた冷気を纏うもの。

「だからこそあの子は私の目の届く範囲に居てもらわなきゃならない。あの子が何かに巻き込まれていようといまいと、それでなくともあの子は十分奇怪な存在なんだ」
「そう、か」

その言葉から数秒を空け、カイトは云い難そうに口を開いた。

「・・・さっきの、住み込みとかいうのは、何かの悪い冗談か?」
「事実さ。私はあの子と一緒に生活をしてる」
「じゃあ、アンタのあの『病気』は治ったのか?」
「治るはずがない、アレは私の『性分』だ」
「それは、もうあの子には云ったのか」
「真実半分、嘘半分ってとこだよ」

ソウルはそこで長く息を吐き、先ほどまでの座っていたイスへと体を沈めた。


「云えるはずが無いじゃないか。やっと大事に思えるようになったヤツに、私が『近くに居る人間を誰彼構わず殺したくなる』なんて、そんな気質を持ったやつだなんて、さ」









店を出た後、二人がそんな会話を交わしていたことなど、私は夢にも思っていなかった。







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「昼飯ならこいつをベーコンと一緒にパンに挟んで食うのが一番さ!」

「それならこっちの青いのも入れるといい。酸味が加わっていっそう美味しいよ」

「おいおいおい!そんなすっぱいもの入れたら他の味が全部台無しになるだろうが!」

「そんなことあるもんかい!そう感じるならアンタの味覚がおかしいんだよ!!」

「何ぃ?!」

「あ、ははは・・・(あー・・・お米が食べたいなー・・・・)」

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アトガキ
はい。わけの分からないまま第三段です。
まぁ何と云いますか、ソウルさんの心の葛藤的なものが表現できてれば、いい、なー。なんて。
まだ今の所ソウルさんの立場は不明なので「なんのこっちゃ」という感想が大部分だとは思いますが・・・。
ていうかカイトですよ。一話目二話目と連続で敵キャラだったのでそろそろゴン側の人間を出さないとなーと思って出したのですが・・・。何なんでしょうね、口調も性格もいまいち掴めないまま書いちゃいましたが。
ぶっちゃけ私がカイトの一番活躍するキメラアント編に入ったあたりを読んでいないのが原因なんですがね。(お前
というかこんな話なら別にカイトでもなくてもよかった気もしますが、まぁ気にしない方向で。
ちなみに最後の会話は市場のご夫婦。いい人たちなんだけど一度喧嘩が始めると中々終わらないことで有名なお二人という裏設定だったり。